サブスタの夏休み ~デン太郎の観察日記~
壮大なる自由研究
こんにちは、どてらいです。負け犬変態紳士(M)をやってます。主にプロレスを生業に、米と味噌を買いながら暮らしています。
毎日、暑い日が続いておりますが、みなさんはいかがお過ごしでしょう。
え? 僕ですか? 暑いに決まっとるやろがい!
……と、言いたいところなんですが、実は最近、背筋が凍るような恐ろしい出来事に出くわしまして。
暑気払いの代わりに、みなさんにお裾分けしようと思います。
7月20日
この日はとても暑かった。あまりに暑くて、倒れてしまうかと思いました。
水を飲んでも、塩キャンディーを舐めても、バテていく。ずいぶん前、おばあちゃんに聞いた話を思い出しました。
「暑いときに冷たいものばっかり飲むと、かえって疲れるのよ」。
「じゃあ、どうしたらいいの」。
「食べるのよ。お腹いっぱい」。
そうだ、僕は食べていなかったからバテていたんだ。焼き肉だ。焼き肉を食べよう。そう思って、僕は焼き肉をたらふく食べました。でも、不思議なのです。食べても食べてもお腹が膨れません。むしろ、お腹が空いていく。
「お客さん、今日は閉店だよ」。
柄の悪い店員が、乱暴な口調で言いました。胸元の名札には「たけ ひさお」と書かれています。
「え……でもまだ営業時間じゃ……」。
「あんたが馬鹿みたいに食べるから、もう食材がねえんだよ。はい、お会計ね」。
「い、1000万円!? そんな法外な……」。
「払えないってのかい? じゃあ、地下労働施設にぶち込んじゃおうかな!」
「そんな……払います。払うから許してください」。
僕は、ポケットから財布を取り出して、マジックテープをベリベリ剥がしました。財布の中には、どうにか1000万120円入っています。
「げへへ、まいどあり」。
たけひさおが悪どい顔をしてお札を数えるのを見て、僕は悔しくて歯ぎしりをします。すると、不思議なことが起きました。たけひさおが苦しみ出したのです。
「な……なんだこの音は……! 黒板を引っ掻いた音の不快感を100倍にしたような気持ち悪さ……」。
柄の悪さとは裏腹に、具体的かつ的確な感想を言い残して、たけひさおはその場に倒れました。もしかしたら死んだかもしれません。僕は怖くなって店を飛び出します。
外は、今もなお酷暑。おまけに、僕はたらふく食べたのにお腹が空いています。
「ダメだ……お腹が空いて力が出ない……」。
ついに僕は、その場に倒れ込みます。
薄れゆく意識の中、僕の脳内に、声が響きました。
「こんにちは!」
7月22日
気がつくと、僕は真っ白い天井を見上げていました。どうやら、ベッドに横たわっているよう。微かに薬品のにおいがします。
「お寝坊さん。丸二日も眠っていたのよ」。
声のする方に目を向けると、言葉にするのもはばかられるほど破廉恥な雰囲気を醸し出している女医さんがいました。
「あ……あなたは?」
「私は伊呂家虹美(いろけ にじみ)。闇医者よ」。
名が体を成し過ぎて逆にドン引きです。おまけに闇医者ですって? 漫画じゃあるまいし。
「あなたは路上で倒れたの。通りすがりの親切な人が病院まで運んでくれたのよ」。
「展開が雑すぎる……!」
僕がため息をつくと、またしても脳内に声が響きました。
「あはは! 変なの!」
明らかに、闇医者の声ではありません。かといって、僕の声でもない。言うなれば、弾むような子どもの声です。
「まただ……何なんだこの声は」。
「聞こえるのね」。
「最近、幻聴が聞こえるんです」。
「あなたはね、つかれてるの」。
「そうか、やっぱり疲れてるのか……」。
「お馬鹿さん。『憑りつかれてる』の方よ」。
「憑りつかれてる? 何に?」
「怪異」。
「怪異?」
「ほら、これで口の中を覗いてご覧なさい」。
渡された手鏡で、口の中を映してみました。瞬間、全身にヒュッと悪寒が走ります。
「こんにちは!」
僕の奥歯が挨拶をしました。ご丁寧に、顔と両手まである。
「な、な、な、なんなんですか、こいつは」。
「これはね『世間知らず』よ。親知らずに宿る怪異なの」。
「なんですか、その学のない一休さんが名付けたような怪異は」。
「世間知らずはね、宿主が摂取した栄養を吸い取って育つの」。
「まさか、食べても食べてもお腹が空くのって……」。
「そう、世間知らずのせいよ」。
「あはは、どてらいさん。焼き肉ご馳走さまでした! それにしても、たけひさおとかいう店員はとんでもないやつでしたね! でも、どてさんが僕で歯ぎしりしたお陰で超音波を発して、撃退することができました」
世間知らずは無邪気にケタケタと笑います。こわっ。怖すぎる。もはや人知を越えた超兵器じゃないか。
「早く世間知らずを治療しないと、あなたは死んじゃうわ。栄養失調か、金欠で」。
「やだー! 先生! なんとかしてください! そうだ! 親知らずの怪異なら、抜けばいいんじゃないですか!」
「それでも死ぬわ。説明は省くけど」。
「いや、説明してよ」
設定が固まっていないのが見え見えすぎて、僕は苛立ちました。
「方法はあるわ」。
「は……破廉恥先生……」。
「伊呂家虹美よ。あのね、世間知らずはその名の通り、世間を知らないの。だから、世間の厳しさを叩き込めば、消えるわ」。
「今、この瞬間以上に厳しいシチュエーションが想像できないんですけど」。
「うーん、そこは気合いと根性で頑張って」。
「頑張って!」
闇医者と怪異の声が重なりました。うるせえ。
かくして、怪異「世間知らず」を解呪するための日々が始まります。
7月25日
病院で目覚めてから、3日が過ぎました。伊呂家虹美先生から処方された変な色の栄養ドリンクを飲むことで、僕はギリギリ生命を維持しています。
日常を過ごしているだけなのに、流れ出ていく栄養と金銭。僕にとっては十分厳しいシチュエーションですが、世間知らずは一向に消えません。
きっと、世間知らず自身が厳しさを実感できないと、呪いが解けないのでしょう。
「どてさん、今日はどこに行くんですか?」
「飲食店の取材だよ。誰かさんのエンゲル係数が高いから、たくさん仕事をしなきゃならない」。
「やった! ということは、いっぱい食べられるってことですね!」
食べるのは僕なのに、栄養は世間知らずに奪われる。
おお神よ、僕が何をしたというのですか。
あまりにもひどい仕打ちではないですか。
「ウチの店の看板はナポリタンで。特に、トマトソースにこだわってるんですよ」。
取材店の純喫茶「合羽橋」の店主・三瀬(みせ)カケル氏が胸を張ります。ああ、なんて爽やかなんだ。爪の垢を煎じてたけひさおに飲ませてやりたい。
早速、彼の作るナポリタンを口に運ぶと、世間知らずが喜びの声をあげました。
「うわあ! 美味しい!」
どうやら、その声は僕の口から漏れ出していた様子で、三瀬カケル氏は「ありがとうございます」と、微笑みました。世間知らずはさらに続けます。
「このトマトソース、すごく希少な『ツチノコトマト』使ってますね! こっくり甘みが深くて、パスタとの絡みが最高!」
「ほほう! お目が高い! まさかツチノコトマトをご存知とは」。
「僕、トマト大好きなんです!」
そのひと言を皮切りに、世間知らずはトマトの豆知識を語り始めました。
それを聞いて、楽しそうに頷く三瀬カケル氏。完全に、世間知らずと三瀬カケル氏の会話です。
「いやー、どてらいさん。あなたほど知識に長けた物書きには会ったことがない。また、取材にきてください」。
「ど……どうも」。
三瀬カケル氏の上機嫌な表情に複雑な思いを抱きながら、僕は帰路につきました。
「どてらいさん。僕、余計なことしちゃいましたか?」
世間知らずが、不安げに尋ねます。
「そんなことないよ。君のお陰で取材は大成功だった」。
「僕、少しでもどてらいさんの役に立ちたかったんです……」。
「わかってるよ。ありがとう」。
「じゃあ、なんで浮かない顔をしてるんですか?」
「君を追い出すことに、躊躇いが生まれてしまった」。
本音でした。世間知らずはたまたま怪異に生まれた。たまたま宿主の栄養を吸い取るという特性を持った。逆に言えば、彼はそうしないと生きられない。害はありますが、悪意はありません。
「君は、悪い怪異じゃない。僕一人じゃできないことを、君と一緒だからできた」。
「どてらいさん……」。
「栄養は、伊呂家虹美先生の栄養ドリンクで補える。高い食費は、一緒にたくさん稼げばいい。なんとか、共存の道を探していこう」。
「どてらいさん……僕、一生懸命がんばります」。
口の中が、少し塩辛く感じました。怪異も涙を流すようです。
「君は、食の知識については僕よりも上だ。世間知らずなんて呼ぶのもよくない。そうだ『デン太郎』なんてどうだ? 洒落が利いてるだろ?」
「わーい! 僕は今日からデン太郎だーい」
「ははは、これからよろしくな!」
夕暮れの空に、僕とデン太郎の笑い声が響き渡ります。
7月31日
デン太郎とタッグで仕事を始めて一週間。僕たちは忙しく過ごしていました。
デン太郎の知識と僕の文章。この組み合わせは、想像以上に相性がよく、仕事は倍増。闇医者から薬を買いつづけるためのお金も目処がつき、なんとか生き長らえることができそう。そんな予感に、胸弾む日々を送っていました。
しかし、そんな平穏な日々はすぐ終わりを迎えます。
「ずいぶん楽しそうじゃねえか」。
取材の帰り道、談笑しながら家路につく僕とデン太郎を呼び止める声。
「お前は、たけひさお!」
「あの時はよくもやってくれたなあ! お礼をしにきてやったぜ! ゲスゲスゲスゥ~」
「おのれ、気持ち悪い笑い方をしおって!」
「ははー! 貴様の『おのれ』の方がよほど可笑しいもんね! ぷぷー」。
「く……」。
「どてらいさん! 落ち着いて! 歯ぎしり超音波で……」。
「おおっと! そうはうまくいかねえぜ!」
たけひさおがそう言うと、彼の背後からもふもふの動物が姿を表しました。
「……師匠!」
「デン! 今、師匠って……」。
「うふふふ、久しぶりだね世間知らずぅ~。今はその人間に憑りついてるんだね」。
「どてらいさん、逃げて! あの怪異は『暴食の魔獣わくわく』……僕の師匠です」!
何がなんだかわかりません。怪異に師匠も山椒もないでしょうに。
「ゲスゲスゲスゥ~! わくわく先生はkindleも出版している、今、ノリに乗ってる怪異なんだよ! お前らを葬るために、用心棒としてやとったのさぁ~! いーひゃーひゃーひゃー!」
「おのれ、たけひさお! 怪異に魂を売ったか!」
「どてらいさん、相手にしないで逃げて! わくわく師匠は……」。
「遅いよぉ~」。
その声が聞こえたと同時に、僕の視界が真っ暗に。次の瞬間、まるで火を浴びたかのごとく、顔面が熱くなりました。
「すりすりすりすりすり!」
「ウワーーー! 顔が、顔が~!」
「出たぜぇ~! わくわく先生の必殺技『顔面削り』! ひとたまりもねえだろう~」。
「ああ……ああ……」
成す術もなく顔面を削られ、僕は膝から崩れ落ちました。
「どてらいさん! どてらいさん! しっかりして!」
「おやおや~。うるさい弟子ですねえ~。あなたにもお仕置きをしてあげましょう」。
そう呟くや否や、わくわくの体が小さく縮み、口の中に飛び込んできました。
「すりすりすりすり!」
「う……うわーーーー!」
デン太郎の悲痛な叫びと、彼のエナメル質が削り取られる嫌な音が口中で響きわたります。ややあって、その声と音が聞こえなくなると、わくわくが外に飛び出し、ポンっと元の姿に戻りました。
「で……デン太郎……」。
「どてらいさん……世間って厳しいね……」。
ああ、デン太郎。それを知っちゃ。世間の厳しさを知っちゃ、君は……!
「なんか、ぼんやりしてきた……。そっか、僕はもう消えちゃうんだね」。
「デン太郎……だめだ……。これからも一緒に頑張るはずだったじゃないか」。
「ふふふ……自分のことはよくわかるよ。消える前に、どてらいさんからもらった栄養を返すよ……その力で、あいつらをやっつけて」。
「だめだ! デン太郎!」
「ありがとう、どてらいさん。名前をつけてくれて嬉しかったよ」。
「デン太郎……デン太郎ーーーー!」
しかし、デン太郎から返事はありませんでした。代わりに体中を包んでいた鈍い倦怠感が消え、力がわいてきます。削られた顔面も、すっかり元通りでした。
「ゲスゥ! 復活しやがった!」
「うふふ~。何度復活しても同じ……ですよっ!」
わくわくは、目も留まらない速さで飛びかかってきました。再び僕の視界がふさがれます。
「そーれ、すりすりすりすり……あれ?」
「ば……バカなァ! わくわく先生の顔面削りが効かねえだとぉ!」
「貴様らだけは絶対に許さん!」
僕は、わくわくを顔から引っぺがし、たけひさおの顔面に投げつけます。
「ウワーーー! 回転がかかって、俺の顔面が削れる~!」
「あはは~、なんか楽しいですね~」
たけひさおは顔を削られ、わくわくは楽しんでいる!
今だ! デン太郎が残してくれた力を全て込めて!
「俺のこの手が真っ赤に燃える! 貴様らを倒せと轟き叫ぶ! 必殺! 愛と怒りと悲しみのォ! ギャァルゥ! マインドォォォ!」
体内に残った栄養を燃やし尽くし、右手の掌から一気に放出!
まるで炎のようなオーラがたけひさおとわくわくに向かっていく!
ドォォォン……!
「ゲスゥゥゥ!」
「あ~れ~」
たけひさおは、気持ち悪い断末魔を放ちながら。わくわくはどこか楽し気な様子で、宇宙の彼方に飛んでいきました。
悪は滅びた。しかし、デン太郎はもう……。
「どてらいさん」。
背後から、聞きなれた声が聞こえました。振り返ると、そこにはデン太郎が!
「どてらいさんの役に立てたことを閻魔様に褒められて、この世に戻ってきたんだよ!」
「閻魔様、仕事が早いな! 最近、亡者のクセが強くて大変だという噂がまことしやかにささやかれてるけど、頑張ってくれたんだな!」
デン太郎が、嬉しそうに駆け寄ります。僕も、一歩踏み出しました。
「どてらいさーん!」
「デン太郎……まて、デン太郎! なんだそのスピードは! デン太郎ーーー!」
復活したてで元気がありあまっているのか、デン太郎は弾丸のようなスピードで近づいてきます。
「ぐっはあ!」
デン太郎のエナメル質の頭が、僕の鳩尾に直撃! 体を突き抜けてデン太郎は宇宙の彼方まで飛んでいく!
薄れゆく意識の中、僕の耳にすごく色気のある女性の声が聞こえてきました。
「実験は成功ね。世間知らずの人間での培養。宿主からの切り離し。生物兵器『エナメル魔弾』としての利用。すべて実用レベルをクリアしたわ」。
「あ……あなたは……破廉恥先生……」。
「伊呂家虹美だってば。三瀬カケルさん。片付けといて」。
「承知しました」。
「片づけてって……いったいどういうことですか……」。
「ふふふ、鈍いのね」。
妖艶な声が柔らかく耳を包みます。眠りに誘うような声だ。悔しい。
「これまでのことは、自由研究だったのよ。国家レベルのね」。
プシュン……。
僕が覚えているのは、ここまでです。
とある夏の、ちょっと奇妙な物語。
信じるか信じないかは、あなた次第……。
さて、4日間にわたりお送りしてきた「サブスタの夏休み」。
ラストはどてらい作、デン太郎の観察日記でした!
ノリと勢いで始まったこのリレー記事。結果的に、リレーでもなんでもない、各々の狂ったストーリーが続きました。なんのことはありません。この4人は「リレー記事」という概念を理解せずに企画を進めていたのです!
まあ、ある意味自由研究っぽい企画になったから面白かったと思います。
さて、明日の7時からは、僕たちがなぜ突然この企画をやることにしたのか。
裏話を公開しようと思います。
お楽しみに!
追伸
あと、本作で初登場となった闇医者・伊呂家虹美(いろけ にじみ)先生のイラストを 描いていただける人もお待ちしております。
描いてくれたら、どてらいが泣いて喜びます。












こんな感じに仕上げました
(頼まれてもいない🤣)
4人の仲良しっぷりを堪能させてもらいました🤩 ケタケタ😍