「その過去があるから今があるんですね」は、聞き手のエゴなのかもしれない
物書きの「なんでだろう」 #3
こんにちは、どてらいです。物書きをやってます。文章を書いて米と味噌を買いながら暮らしています。
突然ですが、文章を書くためには「取材」っつーもんが必要なんです。
材料がないと書けませんからね。
書籍やWebでリサーチする。
出かけて見聞きする。
食べたり、遊んだりといった体験をする。
その他もろもろ!
物を書くための材料を取りに行く。
その全てのアクションを、「取材」と呼ぶわけです。
中でも代表格が「インタビュー」。
取材っていうと、これが真っ先に浮かぶくらい、重要なアクションです。
たかが10年ですが、数多くの経営者や芸能人の方々からお話を聞く機会をいただきました。
その中でも忘れられない話を、今日はします。
駆け出しの頃の、失敗談ですね。
たったひと言発した言葉で、インタビューは凍り付いた
「どういうわけか、インタビューがうまい」。
駆け出しの頃から、僕はインタビューに関して、担当編集やお師匠さまから褒められることが多かったような気がします。
決して自慢じゃありませんよ!
なにせ、その褒め言葉の後には「それだけ拾えているのに、なぜ文章に落とし込めない」と、必ず付け加えられるわけですから。
ただ、僕自身も自覚はあったんです。
「俺はインタビュー、うまいんじゃないか?」
おそらく、前職が接客業で、人の話を聞き出すことが日常茶飯事だったからだと思います。
まあ、接客に関しては本当に苦労しましたからね(そのあたりの接客強制レベリングの話は、こちらの記事をご覧ください)。
文章は下手でも、インタビューだけはイケる、というちっぽけなプライドにすがっていた物書き2年目。
僕は、とある飲食店経営者の方の取材をしました。
便宜上、Aさんとしましょう。
当時のAさんは直営2店舗くらいを束ね、これから伸ばしていくんだ、という時期。
そんな彼の物語を紹介して、「これから飲食店で起業するんだ!」という人の背中を押す。
かいつまんで話すと、そういう媒体の記事を書くためのインタビューだったわけです。
人懐っこい笑みを浮かべ、席につくAさん。
言葉を発すれば、物腰柔らかで、口調も丁寧です。
聞けばAさん、教育熱心な親御さんのもとに生まれ、小学校、中学校となかなかの名門校へ進学していたそう。
ところが、高校受験に失敗し、自信を喪失。
張りつめていた糸が切れたかのように、勉強へのモチベーションを失ったAさんは、荒れた毎日を送ります。
「いわゆるヤンキーですよ。恥ずかしい限りで」。
はにかみながら、ぼそっと呟くAさん。今の姿からは想像もできない、意外な過去を耳にした僕は、不意にこう答えます。
「その過去があるから、今のAさんがあるんですよね」。
すると、Aさんの眉がぴくりと動き、その視線が僕に向きました。
2、3秒ほどでしょうか。じっと僕の目を見た後、腕を組み「うーん」と唸ります。
「そういうことじゃないんだけどなあ……まあ、それでいいです」。
そう呟き、Aさんはまた現在までの歩みを語り始めました。
先ほどより、ほんの少し早口で。どこか鋭い眼差しを、僕に向けながら。
その後、Aさんの記事は無事に公開され、案件としては終わりを迎えます。
けれども、僕はAさんが「そういうことじゃないんだけどなあ」と呟いたときの、困ったような表情が目に焼き付いていました。
あの言葉は、どういう意図で発したのだろう。
結局のところ、それ以来Aさんとお会いすることがなかったので、真相はわかりません。わかっているのは、僕の「その過去があるから、今のAさんがあるんですよね」という発言から、彼の表情や語り口が明らかに変わったこと。
それは、気分を害された怒りや、意図が思った通り伝わらなかった困惑とも違って、どこか諦めのような、悲しげな雰囲気を醸し出していました。
きっと、原因は僕だ。あの発言だ。でも、何が悪いのかわからない。
僕としては、苦しい時期を乗り越えて、素敵な社長になったAさんに敬意を込めて発した言葉だったわけで。決して嫌な気分にするつもりはなかった。
知らず、僕は美談を押し付けていた
どこか頭の隅にモヤモヤを残したまま過ごし、1年ほど経ったある日。僕は知人の紹介で、異業種交流会へ足を運びます。
恥ずかしながら、僕はああいう場が大の苦手でして。
何が嫌かって、自己紹介を何回もしなきゃいけないじゃないですか。
接客とか、インタビューとか、人の話を聞くのは性に合ってる。
けれども、自分のことを話すのはすさまじく抵抗がある。
そんな人間にとって、大勢の前で自己紹介したり、知らない人とニコニコ話したりするのは、苦行以外の何者でもないわけです。
とはいえ、連れてきてくれた知人の顔をつぶすわけにもいかず、引きつった笑顔のまま、交流を続けます。
「どてらいと申します。物書きをやってます。前職はたこ焼き酒場店主です」。
僕の思惑とは裏腹に、この経歴はたいそう引きが強いようで、そこに至る経緯を聞かれます。
今みたいに、面白おかしく「ラジオのメール職人が高じて」と話せば良かったんですけどね。あの頃は、馬鹿正直に本当のことを全部話してたんですよ。
転職に失敗し、離婚し、色々なことがうまくいかない中、判断が鈍って「メール職人で常連になったから、俺には文才がある」と思い込んだ、半ば無理やりに。
それ以外、自分が何かできる気がしなかった。
手札が何もないから、無理やりそれを手札にした。
当時はね、必死でしたからね。誰かに助けてほしくて、そういうことを包み隠さず話してたんですね。でも、話せば話すほど、自己肯定感が下がるんですよ。
そんな中、ふと参加者のひとりに言われたんです。
「でも、好きなことをお仕事にできて、良かったですね」。
あれ? 僕はやむにやまれぬ事情で物書きになった、って話したばかりだよね。
今の話をどう聞いていたら、「好きなことを仕事にして良かった」になるんだろう。
「あ、いやいや。そういうことじゃないんです」。
「え、でも書くのが好きだったことは事実ですよね」。
「それはそうですけど、それが物書きになった決め手じゃないですよ」。
「でも、結果的に『好きなことが仕事になった』わけじゃないですか」。
なんでこの人は、当人である僕が違うと言っているのに、認めてくれないんだろう。
まるで、イイ感じの美談にしないと気が済まないかのような圧を感じる。
僕は腕を組み、「うーん」と唸りました。
「そういうことじゃないんだけどなあ……まあ、それでいいです」。
そこでハッとしました。
「俺、Aさんに言われたことと、同じこと言った!」
そして、当時のAさんの気持ちが想像できました。
僕は、勝手に「美談」を押し通そうとしていた。Aさんは、美談を語っていたわけではないのに。
書きたいことを書くのは正しいが、書きたいことを言わせるのは間違ってる
物書きは、インタビューを行う前には、大体書くことが決まっています。
ターゲットに対して、こういう訴求をして、こういう結果につなげたい。
そのためには、こういう構成で記事を作る。
ゆえに、インタビューで聞くことはアレやコレである。
ある程度内容を固めて、リサーチをした上で、調べても出てこない未知の情報を引き出しに行く。これが、インタビューの目的です。
そのため、物書きは少なからず「こういう記事にしたい」という意図を持って臨みます。だから、インタビューで「これはいい要素になりそう」という話が出たら、それを書きたくなります。
僕は、Aさんの荒れていた頃のエピソードを聞いて、「しかし、その過去があるから、今のAさんがあるのである」と書きたくなったんです。
だから、「その過去があるから、今のAさんがあるんですよね」と、無理やり合意を取りにいった。
けれども、これは勝手な決めつけです。
だって、僕が聞いたのは「Aさんが荒れていた」という導入だけで、そこから現在に至るまでの経緯を聞いていないのだから。
全部すっ飛ばしてる。これは、相手の話に興味を持っていないに等しい。
「美談を書きたい」。
そんな、しゃらくさい浅はかな思惑が、透けて見えていたんだと思います。
聞き手はインタビューのガイド。案内はすれど、誘導はするべからず
誤解を避けるために補足すると、取材を終えて整理すると、「Aさんは荒れていた自分を恥じ、それを原動力に頑張って、現在のような人柄になった」という話に帰結しました。
僕の決めつけた美談は、結果的に事実だったわけです。
実際、僕は「しかし、その過去があるから、今のAさんがあるのである」と書きました。
しかし、この話の問題点は、そこではありません。
本当の問題は、話を最後まで聞く前に、結論を決めつけたことです。
あの時、僕がすべきだったのは「過去があるから、今のAさんがあるんですよね」と決めつけることではなく、「その過去が、今のAさんにどうつながるのですか」と聞くことだった。
もしかしたら、別のエピソードを聞くことができたかもしれません。それを聞いていたら、僕の勝手な決めつけで膨らんだ「しかし、その過去があるから、今のAさんがあるのである」という陳腐な言葉ではなかったかもしれない。
なにより、せっかくインタビューを受けてくれたAさんの心を波立たせることはなかったかもしれない。Aさんに心境を聞いたわけではないのでわかりませんが、少なくとも当時の僕は礼を欠いていたと思います。
この出来事以来、心構えを変えました。
聞き手の仕事は、あくまでインタビューを正しい道のりでゴールへ導くこと。
てめえの勝手な妄想から生まれた答えを、相手に言わせることではありません。
案内はするけど、誘導はしない。どんなに取材に慣れようとも、このルールだけは、絶対に破らないようにしています。
さてさて、本日は僕のクソショボい失敗談にお付き合いいただき、ありがとうございました。
次回は、「文章力がよくわからないから、分解してみた」的な話を書こうと思います。ちょっと内容がモリモリなので、何回かの続き物になります。
懲りずに、また読んでいただけたら幸いです。
ほなほな~♪









インタビューして記事を書くって、めちゃくちゃ高度な技術ですね。
私はフォトグラファーという仕事柄ライターの方とはよくお仕事ご一緒しますが、こちらの記事を読んで、その技術力をやっと理解できました。やー。すごい。尊敬します。
どてらいさん、めちゃくちゃ笑う気満々で読み進めたら...めちゃくちゃ真面目な記事じゃないですか🙌‼️
でも、どてらいさんのピュアな想いも読めて、素直にグッときました😊
確かに、自然と美談に持っていくと、自分もなんか知らんけど、『よし、うまくまとめられた👍』って感じに酔ってしまっている気がします。
多分。
いや、少なからず僕は絶対そう‼️
相手が主役。
自分がメインになろうとせずに、『ちゃんと』相手のことを知ろうと、改めて感じさせていただける内容でした。
ありがとうございます😊🙏